- Q1.
- 成年後見制度とは、どのような制度なのですか。
高齢者や障害者の方々が、悪質商法等の被害に遭い思わぬ損害を被ることが無いよう保護し、権利を擁護する制度が成年後見制度です。
- Q2.
- 成年後見制度は、自己決定とか、ノーマライゼーションの精神を重視しているとか聞きました。どういうことなのでしょうか。
成年後見制度は、誰もが自分らしい生活を送れるよう、本人の意思を尊重し、障害があっても無くても共に暮らし共に生きようとする考え方を基本理念とする制度です。単に事務的・形式的に本人の財産を管理する制度ではなく、本人の生活・医療・介護等生活全般が上手く営まれているか本人の身上にも目配りをしながら、保護・支援する制度です。
- Q3.
- 新しい制度の仕組みを簡単に説明していただけませんか。
新しい成年後見制度には、判断能力に問題のない元気なうちから、将来に備えてあらかじめ契約で後見人を選んでおく「任意後見」と、すでに判断能力に衰えがある人を支援する「法定後見」の2つがあります。そして「法定後見」にはさらに、「補助」「保佐」「成年後見」の3類型が用意されています。これらは判断能力の程度に応じて使い分けます。
- Q4.
- もう少し、詳しく説明していただけますか。最初に任意後見についてお願いします。
わかりました。眠くならないよう「ちょっとだけ」詳しく説明しましょう。
任意後見というのは、将来自分の判断能力が衰えだしたときに備えて、元気なうちから、任意の契約(任意後見契約といいます。)で自分の後見人になってもらう人(任意後見受任者といいます。)を選び、その人に老後等における財産管理等の行為(任意後見事務といいます。)を代理してもらえるようにしておく制度のことをいいます。任意後見契約は、必ず公正証書でしなくてはなりません。そして契約の内容は登記されます。この登記は成年後見登記と呼ばれ、不動産や会社の登記とは異なる特別な登記で限られた範囲の人にしか情報が開示されない仕組みになっています。
- Q5.
- 公正証書でなくてはならないとのことですが、どういう意味ですか。
公正証書とは、公証人という高度な専門家が法律にもとづき作成する権利や義務に関する証書のことをいいます。任意後見契約では、本人の判断能力が衰えだした後に契約の効力が生じる仕組みになっています。ですから、万一、契約内容が違法だったり無効だったりすると、取り返しがつかないことになってしまいます。そこで、必ず公証人に作成させることとして、適法で有効な契約書になるよう配慮しているわけです。
- Q6.
- 公正証書で契約し登記されると任意後見がスタートするのですね。
そうではありません。
任意後見は、将来、判断能力に衰えが出て来た場合にそなえるためのものですから、元気なうちからスタートさせる必要はないのです。将来判断能力が衰えだした時点で、本人や任意後見受任者などから家庭裁判所に申立てを行い、後見人を監督する人(任意後見監督人といいます。)を選んでもらいます。この任意後見監督人が選ばれた時から任意後見契約はスタートします。本人の判断能力が衰えたことをいいことに、万一にも後見人が権利を濫用したりすることがないよう家庭裁判所が監督人を通してチェックできるようにするためです。この仕組みはわが国にしかないユニークなもので、海外の関係者からも注目されているようです。
- Q7.
- それでは、法定後見の3類型について説明してください。
まず補助について説明しましょう。
補助は、初期の認知症(痴呆性)高齢者の方や軽度の知的障害のある方など、判断能力がやや不十分な方々を保護するための制度です。これらの軽度の方々こそが最も悪徳商法等の被害にかかりやすいと言われながら、従来の禁治産、準禁治産の制度では保護の対象外とされていました。補助では、保護者を補助人、保護を受ける本人を被補助人と呼びます。
つぎに保佐です。保佐は、判断能力の不十分さが著しい方々を保護するための制度で、従来の準禁治産制度を改めたものです。保佐では、保護者を保佐人、本人を被保佐人と呼びます。
最後に成年後見は、判断能力を欠く常況にある方々を保護するための制度です。判断能力を欠く常況にあるというのは、一時的には回復することがあっても、大体の場合、判断能力を欠いている状況にあることをいいます。成年後見では、保護者を成年後見人、本人を成年被後見人と呼びます。
補助・保佐・成年後見の内容は、任意後見のときと同じように登記(成年後見登記のことです。)されます。なお、戸籍への記載はなされません。
- Q8.
- 補助人、保佐人、成年後見人は、どのようにして本人の権利を擁護するのですか。
補助人、保佐人、成年後見人は、裁判所から付与された同意権・取消権や代理権を駆使して本人の権利を擁護します。同意権というのは、本人がお金を借りたり、保証人になったりするような重要な行為をおこなう際には、補助人や保佐人がチェックをし、本人の不利益にならないことを確認したうえでオーケーを与える権限のことをいいます。取消権とは、こうしたオーケーなしに、本人が行為をしてしまい、その結果本人に不利益が生じるときは、最初からなかったことにして無効にしてしまう権限です。また、代理権とは、契約等の行為を本人に代わって行う権限のことです。
補助人・保佐人には同意権・取消権や代理権が、成年後見人には代理権と取消権が与えられます。なお、話しが少しもどりますが、先ほどの任意後見人には、代理権のみがあり、同意権や取消権はありませんので注意してください。
- Q9.
- 補助人・保佐人・成年後見人(後見人等ということにします。)には、医療行為への同意権はあるのですか。
本人が緊急手術を必要とする際などには、後見人等に同意を求められることがよくあります。しかし、現在のところ、後見人等は、診療全体に対する契約(適切に診療してもらうことと、それに対して診療報酬を支払う旨の約束)についての代理権を有するのみで、手術などの外科的処置や手術に準じた検査(観血的検査)はもちろんのこと、予防接種のための注射なども含め、個々の医療行為に対する同意権まではないものと解されています。ただ、現場のニーズは高く、その必要性も皆無とは言い切れないとして、予防接種等の一定の範囲に限定するなどしたうえで、医療行為についてもある程度の同意権を認めてはどうかという意見も主張されています。
- Q10.
- 後見人等は本人の身の回りにも配慮しなければならないと聞きました。食事の世話や実際の介護も後見人等の仕事というわけですか。
食事の世話や実際の介護は後見人等の仕事ではありません。
たしかに後見人等には本人の身の回りにも配慮しなければならない義務が課せられています。これを身上配慮義務といいます。後見人等は、本人の財産管理だけでなく、生活・医療・介護・福祉にも目を配りながら事務を遂行してくださいねということをあらわしたものです。この義務は法定後見であっても任意後見であっても忘れてはならない大切なものです。しかし、後見人等の職務は契約等の法律行為とそれに付随する事実行為に限られており、食事の世話や実際の介護などは、原則として後見人等の仕事ではありません。
- Q11.
- 大事なことですので、後見人の仕事と義務について、もう少し詳しく教えてください。
後見人の仕事の中心は、適正な財産管理を通して、本人の身上監護(生活・医療・介護等の事務)に関する契約等を行うことにあります。後見人は、常に本人の意思を尊重し身上に配慮すべき義務を負うとともに、本人の財産については、自己の財産に対するより一段高い義務(善良な管理者の注意義務)が課せられていますので、注意が必要です。
- Q12.
- 障害者も利用できるとのことですが、こちらの利用状況はいかがでしょうか。
成年後見制度は、介護保険の導入と同時にスタートしたせいか、高齢者のための制度というイメージが強いようです。しかし、成年後見制度は、精神上の障害があることにより判断能力が不十分な方は誰でも利用することのできる制度です。
知的障害のある方や精神障害のある方ももちろん利用できます。
知的障害や精神障害のある方で判断能力が不十分な方は、施設等との契約をするために成年後見制度を利用することができます。とりわけ、知的障害のある方の中には、家族の保護の下に生活し、社会経験が少ない方も相当数いるものと思われます。これらの方々が成年後見制度を利用すれば、活動の場も広がり、家族の負担も減って、より自分らしい人生を送ることができるのではないでしょうか。